近年、日本における韓国美術の受容とその意識
古川美佳
R202202

本論考は、朝鮮美術文化研究者の古川美佳が、主に第二次世界大戦後の日本において、韓国美術がどのように受容されてきたかを考察したものである。2010年代以後、韓国のモノクローム絵画(単色画)は、ジョアン・キーによる『韓国の現代美術―単色画と方法の緊急性』(ミネソタ大学出版、2013年)を皮切りに、世界的な再評価を受けている。だが、古川が注目するのは、そうした「受け入れやすい」表現ではなく、歴史認識や政治性から切り離すことのできない韓国の美術表現を、日本人がどのように受け止めるべきかという、いわば倫理的な課題である。
古川はそもそも「韓国」、すなわち大韓民国の美術のみが政治性を抜き取られたかたちで注目されてきたことを批判的に捉え直し、北朝鮮や在日朝鮮人の美術にも目を向けるべきだと主張する。戦後の韓国美術の受容に際しては、美術表現の歴史的・社会的背景に目を向ける意識が希薄だった。だが、実際の南北朝鮮の美術は、日本の植民地支配からの解放後の「日帝残滓の払拭と独自の文化芸術の建設」に加え、分断状況下での「イデオロギーの選択」という政治に翻弄されつづけたのである。
1980年代韓国の民衆美術(ミンジュン・アート)はまさに韓国の軍事政権に対して直接抵抗の身振りを示した美術運動であり、古川は『韓国の民衆美術(ミンジュン・アート)―抵抗の美学と思想』(岩波書店、2018年)で詳細に考察している。本論考でも古川は、2000年代以降、日本でも民衆美術を紹介する展覧会が開催されるようになり、研究者や美術館学芸員による研究が蓄積されつつあることを評価しつつ、それでもなお韓国の美術を自身のアイデンティティとは関わりないものと見なしがちな日本人の意識を鋭く批判している。
- 題
- 近年、日本における韓国美術の受容とその意識
- 著者
- 古川美佳
- 初出
- 2018
- 翻訳
- ペニー・ベイリー
- 編集
- エリーシャ・オライリー、鍵谷怜、古川美佳
- デザイン
- イエン・ライナム
- テーマ
- アジアの中の日本
- サイト公開
- 2022-12-07
- 更新日
- 2022-12-07
© 2022 Furukawa Mika + Bunka-cho Art Platform Japan
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- サイテーション
- Footnote/endnote: Furukawa, Mika, "The Reception and Awareness of Korean Art in Japan in Recent Years," trans. Penny Bailey, posted December 7, 2022, artplatform.go.jp/resources/readings/202202.
Bibliography: Furukawa, Mika. "The Reception and Awareness of Korean Art in Japan in Recent Years." Translated by Penny Bailey. Posted December 7, 2022. artplatform.go.jp/resources/readings/202202. - 原書情報
- 古川美佳「近年、日本における韓国美術の受容とその意識」『コリア研究』第9号(2018年)、51–64頁。
Furukawa Mika, “Kin’nen, Nihon ni okeru Kankoku bijutsu no juyō to sono ishiki” in Koria kenkyū, vol. 9 (2018), 51–68. - 国立国会図書館(NDL)リンク
- https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000001-I000010597138-00
- ISBN