- 作家名
- 福田美蘭
- FUKUDA Miran (index name)
- Fukuda Miran (display name)
- 福田美蘭 (Japanese display name)
- ふくだ みらん (transliterated hiragana)
- 生年月日/結成年月日
- 1963-02-06
- 生地/結成地
- 東京都世田谷区
- 性別
- 女性
- 活動領域
- 絵画
作家解説
1963年、東京都に生まれる。グラフィックデザイナーの福田繁雄を父、童画家の林義雄を祖父にもつ福田は、幼い頃から美術に親しんで育ち、自然と絵画を志すようになる。1985年3月に東京藝術大学絵画科油画を卒業、卒業制作でサロン・ド・プランタン賞と台東区長賞を受賞する。福田は同大学大学院に進学し、大沼映夫教室に学ぶ。大学院を修了後、1988年にギャルリーユマニテで初個展、翌年、具象絵画の登竜門とされる安井賞(第32回)を最年少で受賞する(受賞作は《水曜日》[1988年、横浜美術館])。国内では団体展よりも公募展に出品し、1987年の現代日本美術展で佳作を受賞。海外では、1991年には《緑の巨人》(1989年、国立国際美術館、大阪)でインド・トリエンナーレの金賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得る。
デビュー間もない1990年代は、急速に情報化が進む社会状況を扱い、身のまわりの雑多な事物を取り上げて画面にコラージュするなど、高い構成力を生かした表現で、混沌とした現代社会を表現した。この頃から、福田は二次元の絵画の可能性、中でも具象表現の可能性を意識し、自分のスタイルとしていく。福田はあえて抽象表現には進まず、一貫して具象によって表現してきた。「抽象画というものに対して、どうしても信用できなかった部分があって」(註1)と本人が語るように、主観的な表現と混同されやすい抽象表現に対する疑問を提示し、具象画の可能性を追求した。
こうして福田が取り組んできたテーマは、大きく3つの視点に分類することができるだろう。一つ目は、写真や印刷等の複製技術に対する視点、二つ目は古今東西の名画に対する視点、三つ目は現代社会に対する視点である。
まず、複製技術に対する視点をテーマにした作品について。福田が活躍を始めた1990年代から2000年頃は、コンパクトカメラがアナログからデジタルへと移り変わる時期であり、新聞やテレビの報道でも、写真が大きなインパクトと説得力をもっていた時代である。福田の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》(1996年、千葉市美術館)は、多くの美術作品が印刷物を通して知られるようになったことに注目し、印刷の際にうっかり画像が反転するミスから生まれる、現代の印刷技術特有の現象を取り上げている。また、《フランク・ステラと私》(2001年、名古屋市美術館)では、福田がステラと撮影したツーショット写真を縦2メートル超のキャンヴァスに引き延ばす形で絵画化し、写真と絵画の違いを問うている。さらに、近年まで継続して福田が取り組み続けているのが「新聞版画」である(註2)。新聞版画とは、展覧会広告や記事などで新聞に掲載された福田の作品の図版を、ひとつの版画としてとらえ、福田がサインとエディションを書き込んだもので、1996年以来定期的に制作を続けている。印刷技術の向上とともに新聞紙面上のカラー画像の質も上がっており、複製版画との違いが明確でなくなっていることや、作家のサインが価値を決める要因であることに着目し、複製とは、オリジナリティとは何かを問いかけ続けている。
二つ目、古今東西の名画に対する視点について。福田は自身が受けてきた西洋中心の美術教育を振り返り、先に触れたように印刷物や映像で触れて “よく知っているつもり” になっている私たちの既成概念に鋭く切り込む。ある時は、名画の一部をモザイク化したり、レンチキュラーレンズを使って動きを表現したりして、描かれた前後の場面に想像力を働かせ、名画を柔軟に楽しむ可能性を示唆する。またある時は、原作とは違う視点で同じ景色を見た様子を想像して描き、名画の世界に自由自在に入り込む方法を提示する。たとえば、《ミレー 「種をまく人」》(2002年、山梨県立美術館)では、かの有名な《種まく人》のポーズが、種を蒔く直前のポーズだったことに気づかされ、《侍女ドーニャ・マリア・アウグスティーナから見た王女マルガリータ、ドーニャ・イサベル・ベラスコ、矮人マリア・バルボラ、矮人ニコラシート・ペルトゥサートと犬》(1992年、高松市美術館)では、私たちはベラスケス《ラス・メニ―ナス》(プラド美術館、マドリード)の劇中の人物になりきったかのような感覚を味わえる。福田の考察は日本美術にも及び、近年では千葉市美術館の所蔵作品から浮世絵を中心に選び、現代社会の事象と絡めながら創作した「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧」(2021年)が記憶に新しい。
三つ目、現代社会に対する視点について。1980年代から、福田は身のまわりの日常的事象や社会的事件に強い関心をもち、作品化している。多くの人々が関心を寄せる物事について、福田は報道や世論に流されることなく、それらを冷徹に分析し、自分なりの見方を提示する。ここでは、代表的な作品を2点挙げておく。まず、アメリカの同時多発テロ事件を扱った《ブッシュ大統領に話しかけるキリスト》(2002年、新潟県立近代美術館・万代島美術館)。この作品で福田は、暴力に暴力で報復するアメリカと、それを止めることができない国際社会の無力を嘆いている。キリストという想像上の人物の登場は、解決策を見いだせない現実をシニカルにとらえた結果ともとれる一方で、現実には得られない救いを求めた表現と見ることもできる。東日本大震災を扱った《秋―悲母観音》(2012年、東京藝術大学)でも、太刀打ちできない自然の脅威を前に、言葉で言い尽くせない哀しみと、それに対する救いを見事に表現している。福田は絵画を通じて鋭い問題提起をするが、それは単に現実をシニカルに切り取っているだけではない。簡単には変えられない現実の重みと、それでも解決の糸口を探りたいという切実な願いが、制作の根底にあるように思われる。
以上、大きく分けて三つの視点で福田美蘭の傾向を分析したが、これらはいずれも、作品に同時代の様相を映し出そうとする姿勢が根本にある。画像や映像によって大量の情報を得る日常、そうした状況下で形成されていく既成概念や社会通念。福田はそうした “当たり前” になりつつある事象を健全に懐疑し、面白がり、丁寧に眺めてテーマを見つける。手振れしてぼやけた写真も、海の向こうで起こっている戦争も、福田は自身と地続きの現実として受け止める。そうした切実さに加え、卓越した描写力と主題に応じて作風を自由自在に変化させる柔軟性が、作品に説得力を生んでいる。
(森本陽香)(掲載日:2024-11-12)
註1
福田美蘭・山下裕二(対談)「みんなの名画、自分だけの名画」[特集 福田美蘭 名画をわれらに!]『芸術新潮』新潮社、1999年8月、p. 22。
註2
『福田美蘭展《99年から新作絵画まで》』世田谷美術館、2001年、p. 31。
- 1988
- 福田美蘭展, ギャルリーユマニテ東京, 1988年.
- 1988
- 第17回日本国際美術展, 東京都美術館, 1988年.
- 1989
- 第32回安井賞展, 西武美術館, 高松市美術館, 尼崎市総合文化センター, いわき市立美術館, 尾道市立美術館, 島根県立博物館, 長岡市立美術センター, とでん西武, 帯広市藤丸, 1989年.
- 1991
- 第7回インドトリエンナーレ, ラリット・カラ・アカデミー, ニューデリー, 1991年.
- 1994
- VOCA展: 現代美術の展望––新しい平面の作家たち. ‘94, 上野の森美術館, 1994年.
- 1997
- VOCA展: 現代美術の展望––新しい平面の作家たち. ‘97, 上野の森美術館, 1997年.
- 1999
- 福田美蘭展: New works; Prints, CCGA現代グラフィックアートセンター, 1999年.
- 1999
- 福田美蘭展: Retrospective, 国立国際美術館, 1999年.
- 2000
- モナ・リザ100の微笑, 東京都美術館, 静岡県立美術館, 広島県立美術館, 2000年.
- 2000
- Partage d'exotismes: 5e Biennale d'art contemporain de Lyon, Hall Tony Garnier, Lyon, France, 2000.
- 2001
- 福田繁雄展: 終りの始まり, 福田美蘭展: 99年から新作絵画まで, 世田谷美術館, 2001年.
- 2002
- 有隣荘・福田美蘭・大原美術館: 大原美術館平成14年度有隣荘特別公開, 大原美術館, 2002年.
- 2004
- 両洋の眼: 現代の絵画. 2004, 松坂屋美術館, 天童市美術館, 尼崎市総合文化センター, 松本市美術館, 河口湖美術館, 2004年.
- 2009
- だまし絵, 名古屋市美術館, Bunkamuraザ・ミュージアム, 兵庫県立美術館, 2009年.
- 2010
- 福田美蘭展: 見たことのある見たことのない世界––開館10周年記念特別企画展, 鹿児島県霧島アートの森, 2010年.
- 2013
- 福田美蘭展, 東京都美術館, 2013年.
- 2014
- だまし絵. 2, Bunkamuraザ・ミュージアム, 兵庫県立美術館, 名古屋市美術館, 2014年.
- 2017
- The ドラえもん展, 森アーツセンターギャラリー, 高岡市美術館, 2017–2018年.
- 2018
- モネ: それからの100年, 名古屋市美術館, 横浜美術館, 2018年.
- 2021
- 福田美蘭展: 千葉市美コレクション遊覧, 千葉市美術館, 2021年.
- 2022
- 日本の中のマネ: 出会い, 120年のイメージ, 練馬区立美術館, 2022年.
- 2023
- 福田美蘭: 美術って, なに?, 名古屋市美術館, 2023年.
- 大原美術館, 岡山県倉敷市
- 国立国際美術館
- 埼玉県立近代美術館
- 高松市美術館
- 千葉市美術館
- 富山県美術館
- 名古屋市美術館
- 新潟県立近代美術館・万代島美術館
- 練馬区立美術館
- 平塚市美術館, 神奈川県
- 山梨県立美術館
- 横浜美術館
- 1989
- 福田美蘭「福田美蘭: ゆっくりと, 見つめる. スタジオ&テクニック」『美術手帖』616号 (1989年11月): 168-171頁.
- 1992
- 名古屋市美術館編『森村泰昌・福田美蘭によるスペイン静物画へのオマージュ』[名古屋]: 名古屋市美術館, 1992年 (会場: 名古屋市美術館) [展覧会カタログ].
- 1994
- 福田美蘭「福田美蘭: より豊かな絵画のために. Artist Interview」『美術手帖』687号 (1994年4月): 188-194頁.
- 1998
- 福田美蘭『ピクチュアレスク: Miran Fukuda 1992-1998. Asahi art collection』東京: 朝日新聞社, 1998年.
- 1999
- CCGA現代グラフィックアートセンター編『Miran Fukuda』須賀川: CCGA現代グラフィックアートセンター, 1999年 (会場 : CCGA現代グラフィックアートセンター, 国立国際美術館) [展覧会カタログ].
- 1999
- 福田美蘭, 山下裕二「みんなの名画, 自分だけの名画. 特集福田美蘭: 名画をわれらに!」『芸術新潮』第50巻第8号 (1999年8月): 20-31頁.
- 2001
- 世田谷美術館編『福田美蘭展』[東京]: 世田谷美術館, 2001年 (会場 : 世田谷美術館).
- 2013
- 平方正昭, 水田有子編『福田美蘭展』東京: 東京都美術館, 2013年 (会場 : 東京都美術館).
- 2016
- 福田美蘭「名画の「読み」を提案する装置(ツール)」『アートコレクターズ』No.89 (2016年7月): 42-43頁.
- 2021
- 田辺昌子, 畑井恵編『福田美蘭展: 千葉市美コレクション遊覧』千葉: 千葉市美術館, 2021年 (会場: 千葉市美術館).
- 2022
- 小野寛子[ほか]『日本の中のマネ: 出会い, 120年のイメージ』東京: 練馬区立美術館, 2022年 (会場: 練馬区立美術館) [展覧会カタログ].
- 2023
- 名古屋市美術館, 中日新聞社編『福田美蘭: 美術って, なに? ––開館35周年記念』[名古屋]:名古屋市美術館, 2023年 (会場: 名古屋市美術館) [展覧会カタログ].
- 2023
- 小野寛子[ほか]『日本の中のマネ: 出会い, 120年のイメージ. 番外編』東京: 練馬区立美術館, 2023年 (会場: 練馬区立美術館) [展覧会カタログ].
- 2023
- 上野の森美術館編『VOCA 30周年記録1994-2023』[東京]: 日本美術協会上野の森美術館, 2023年 (会場: 兵庫県立美術館王子分館) [展覧会カタログ].
Wikipedia
福田 美蘭(ふくだ みらん、1963年2月6日 - )は、日本の現代美術家。
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- 2023-02-20