- 作家名
- 河原温
- KAWARA On (index name)
- Kawara On (display name)
- 河原温 (Japanese display name)
- かわら おん (transliterated hiragana)
- 生年月日/結成年月日
- 1932-12-24
- 生地/結成地
- 愛知県刈谷市
- 没年月日/解散年月日
- 2014-06-27
- 没地/解散地
- ニューヨーク州ニューヨーク市
- 性別
- 男性
- 活動領域
- 絵画
- コンセプチュアルアート
作家解説
河原温の美術家としての活動は、1951年に上京してから1959年に日本を離れるまでの東京時代とそれ以降とにはっきりと区分される。
愛知県出身の河原温は、1951年に県立刈谷高等学校を卒業して上京し、独学で絵画の制作を始めるとともに、多くの若い作家や評論家たちと交わりながら、きわめて早くから独自の絵画のスタイルを作り上げた。アンデパンダン展(日本美術会および読売新聞社)などの公募展、「ニッポン」展やデモクラート美術展などのグループ展、タケミヤ画廊等における数度の個展など、作品発表も積極的に行い、座談会や雑誌への寄稿等を通じた発言もあって、戦後の新世代を代表する美術家とも目されるようになる。
1956年頃までの河原の代表的な作品には、《浴室》(1953–1954年)と《物置小屋の中の出来事》(1954年)という二つの素描連作(いずれも東京国立近代美術館)とともに、油彩画《孕んだ女》(1954年、東京国立近代美術館)、《黒人兵》(1955年、大原美術館、岡山)などが挙げられる。不規則多角形の外形という変型画面に、遠近法を強調した閉塞的な空間を設定し、ロボットやマネキン、人形などを思わせる人体やその断片が散乱する、非人間的でSF的な情景を、不条理で残酷なユーモアとともに描き出す強烈なイメージは、戦争の記憶が色濃いこの時代を代表するもので、批評家・中原佑介によって「密室の絵画」(『美術批評』1956年6月)と評された。
1950年代後半には、より多くの観衆に自作を見てもらうために、「印刷絵画」の制作を始める。これは、作家自身が製版や印刷の工程に直接的に関わって制作された、オフセット印刷による「絵画」の謂である。この時期の作品には、数点の「印刷絵画」のほか、その原稿として制作されたと思われる素描の連作《死仮面》(1955–1956年)がある。
その後、1959年9月に日本を離れた河原は、メキシコで何年か過ごした後、ニューヨーク、パリでの滞在を経て、1964年秋にニューヨークに活動の拠点を定めた。この時期の作品には、1964年にパリとニューヨークで描かれた200点ほどのドローイング(主としてプラン・ドローイング)や、1965年に制作された単色の地に文字や数字を描いた絵画、暗号の作品などが知られるのみである。そして、1966年1月からは、文字通り「ライフワーク」となる代表作〈Today(今日)〉シリーズの「デイト・ペインティング」の制作が開始されることになる。
「デイト・ペインティング」は、一瞥しただけでは、単色の地にアラビア数字とローマン・アルファベットによって一つの日付を記しただけのプレートのように見えるかもしれないが、じっさいには画家自身の手によってきわめて丹念に精密に仕上げられた絵画であり、その制作は、いくつかの厳密な規則に従って行われている。そのうち最も本質的なものは、その絵画が制作された、まさに当日の日付が描かれているということである。そのため、「デイト・ペインティング」はその日付の24時間以内に描き終えて完成されなければならない。正式には〈Today(今日)〉シリーズと呼ばれているのは、このゆえであり、その日のうちに完成されなかった場合は廃棄される。日付は、その絵画が制作された場所で用いられている公用語のうちから選ばれた、ローマン・アルファベットで表記される言語によって白色で記入され、この条件に当てはまる公用語が存在しない場所では、エスペラント語が用いられる。書体もまた、シンプルで装飾のないサンセリフ系のもので、ほぼ同一である。カンヴァスの大きさは、8×10 インチから150号大までの8種類の中から選ばれており、比較的厚みがある。画材はアクリル絵具が用いられている。単色の地色は、赤、青、黒の3種類であるが、赤と青が既成の絵具の色そのままであるのに対して、最も多い「黒」は、実際には黒に近いダークグレーで、その都度複数の絵具を混色して作られており、仔細に観察すれば、紺系、緑系、茶系などのさまざまな色調の違いを見てとることができる。カンヴァスの四囲の側面も全て同色で塗られており、そのため一種の銘板のような物体性が感じられる。絵画は、作者自作のボール紙製の箱に収められており、その内側に当日の当地の新聞紙面の一部が貼り込まれている場合が多い。
とくに留意すべきことは、日付自体には特別な意味や重要性はないということである。その日に作品を描くというのは、作家自身の意志による選択であるが、個々の日付は、歴史的・社会的にも、作家個人にとっても、特別な意味を持つものではない。「デイト・ペインティング」が示しているのは、作者・河原温がその日にその絵画を描いたという事実のみである。それは、いわば作者の存在証明なのである。河原温は、亡くなる前年の2013年までの48年間に、3000点に近い数の「デイト・ペインティング」を描いているが、その全体が一つの作品であると見ることもできよう。
河原はまた、1960年代の後半から、「デイト・ペインティング」と密接な関係にある一連の自伝的な作品を制作した。《I Read》(1966–1995年)は、その日に読んだ新聞のスクラップ・ブックである。《I Got Up》(1968–1979年)は、起床した時刻をスタンプで記録した絵葉書を友人たちに毎日送り続けるメールアート作品である。《I Met》(1968–1979年)はその日に会って言葉を交わした人物の名前をタイプアウトして、《I Went》(1968–1979年)はその日に移動した道筋をゼロックス・コピーの地図上に赤線で記録して、それぞれファイルしたものである。これらはいずれも、「デイト・ペインティング」の派生的な作品とみなすことができよう。
《I Am Still Alive》(1970–2000年)は、「私はまだ生きている」という意味になる表題の英文を、不定期にさまざまな人物(友人や美術関係者など)に宛てて、じっさいに電報として送付するものである。この作品からは、作者の「存在証明」とは「生の証明」に他ならないこととが見てとれる。作者が打電した時点において、真実を語っていたはずの電文は、名宛人が受け取った時点では、「Still(まだ)」という語によって、作者の不在と生の不確かさを暗示するからである。
《100万年》は、1ページに500年分の西暦の年号をタイプアウトし、それを各巻200ページずつ10巻、合わせて100万年分の年号を記した、一種の書物形式の作品である。「過去編」が1970年から71年にかけて、「未来編」が1980年から98年にかけて、それぞれ制作された。100万年という時間は、歴史をさえ超越した宇宙的な時間であり、人類という種の発生と滅亡を暗示しているとも解される。とはいえ、「過去」と「未来」の起点は、作者自身の生の時間である「今年」に取られており、作者の存在/不在、生/死が刻印されているのである。
河原はまた、作者の死後も継続して実施することができる2つのプロジェクトを残した。《100万年》の朗読プロジェクト(1993年– )は、展覧会場などで《100万年》の一部を朗読したり、録音して出版したりするものである。《純粋意識》(1998年– )は、「デイト・ペインティング」を幼稚園で、一定期間、展示するプロジェクトで、人間に社会性が刷り込まれる以前の幼児期に「デイト・ペインティング」を直接体験させることを目的としている。
「デイト・ペインティング」を中心とする河原の作品は、ほとんどが文字や数字を用いているため、コンセプチュアル・アートの文脈において論じられることが多い。しかしながらそれは、文字通り一日一日の、日々の生を、意識の明滅と定義することによって、個人的なものや日常的なものと普遍的なものや宇宙的なものとを直感的に結びつける、きわめて独創的な形式であった。瞑想的な作品は、世界中で高く評価され、現代の芸術の主要な参照点の一つとして、大きな影響を与え続けている。
(南雄介)(掲載日:2024-03-05)
- 1970
- Conceptual Art and Conceptual Aspects, New York Cultural Center, 1970.
- 1970
- 第10回 日本国際美術展: 人間と物質: 東京ビエンナーレ, 東京都美術館, 京都市美術館, 愛知県美術館, 福岡県文化会館, 1970年.
- 1970
- 18 Paris IV. 70, 66, rue Mouffetard, Paris, 1970.
- 1971
- Guggenheim International Exhibition, Solomon R. Guggenheim Museum, New York, 1971.
- 1974
- On Kawara: 1973-Produktion eines Jahres [On Kawara: 1973-one years production], Kunsthalle Bern, 1974.
- 1975
- On Kawara: Production de l’année 1973, Palais des Beaux-Arts, Brussels, 1975.
- 1977
- On Kawara 97 “date-paintings” consécutives journaux de 1966 à 1975, Centre National d'art et de Culture Georges Pompidou, Musée National d'art Moderne, Paris, 1977.
- 1980
- On Kawara, continuity/discontinuity, 1963–1979, ストックホルム近代美術館, フォルクヴァンク美術館, ドイツ, ファン・アッベ市立美術館, オランダ, 国立国際美術館, 大阪 (河原 温 連続/非連続 1963–1979), 1980–1981年.
- 1987
- On Kawara: Berlin, 1976-1986, Deutscher Akademischer Austauschdienst, Berlin, 1987.
- 1989
- On Kawara: Wieder und Wider = On Kawara: Again and Against = 河原温: 反復と対立, ポルティクス・フランクフルト・アム・マイン, シカゴ大学 ルネッサンス・ソサエティー, ICA名古屋 (河原温展「反復と対立」: 河原温と同時代の美術 1966–1989), シドニー現代美術館, 1989–1990年.
- 1989
- Magiciens de la Terre, Centre Georges Pompidou, Paris, 1989.
- 1991
- On Kawara, Museum für Moderne Kunst, Frankfurt, 1991.
- 1991
- Carnegie International 1991, Carnegie Museum of Art, Pittsburgh, 1991–1992.
- 1993
- On Kawara: One Thousand Days One Million Years, Dia Center for the Arts, New York, 1993.
- 1994
- Pictures of the Real World (In Real Time), Paula Cooper Gallery, New York and Le Consortium, Dijon, France and Le Capitou, Centre d’art contemporain and Fréjus, France and Städtische Galerie Göppingen, Göppingen, Germany and Galleria Massimo de Carlo, Milan and 原美術館, 1994–1995年.
- 1995
- On Kawara: Erscheinen - Verschwinden, Kölnischer Kunstverein, Cologne, 1995.
- 1996
- Whole and Parts, 1964-1995: On Kawara, ル・ヌーヴォー・ミュゼ/現代芸術研究所, フランス, カステロ・ディ・リヴォリ, イタリア, バルセロナ現代美術館, スペイン, ヴィルヌーヴ・ダスク近代美術館, 東京都現代美術館 (河原温: 全体と部分 1964–1995), 1996–1998年.
- 1997
- On Kawara: Drawings Paintings Books, Kunstverein St. Gallen Kunstmuseum, St. Gallen, Switzerland, 1997.
- 2000
- On Kawara, Horizontality/Verticality, Städtischen Galerie im Lenbachhaus und Kunstbau München, 2000–2001.
- 2002
- On Kawara: Consciousness. Meditation. Watcher on the Hills, Ikon Gallery, Birmingham, England and Le Consortium, Dijon, France and Centre d’art Contemporain, Geneva and Museum Kurhaus Kleve, Germany and Kunstverein Braunschweig, Germany and About studio/about café, Bangkok and Institute of Contemporary Arts, Singapore and 豊田市美術館 (河原温 意識、瞑想、丘の上の目撃者) and Govett-Brewster Art Gallery, New Plymouth, New Zealand and La Colección Jumex, Mexico City and The Power Plant, Toronto and Museu de Arte, Lima, 2002–2006年.
- 2012
- On Kawara: Date Painting(s) in New York and 136 Other Cities, David Zwirner, New York, 2012.
- 2015
- On Kawara - Silence, ソロモン・R・グッゲンハイム美術館, ニューヨーク, 2015年.
- 東京国立近代美術館
- 東京都現代美術館
- 豊田市美術館, 愛知県
- 名古屋市美術館
- ポンピドゥー・センター, パリ
- シャトー・ドワロン, フランス
- ディア芸術財団, ニューヨーク
- グレンストーン美術館, アメリカ
- フランクフルト近代美術館, ドイツ
- ニューヨーク近代美術館
- 1978
- Kawara, On. I am still Alive. Berlin: Edition René Block, 1978 [Artists Writing].
- 1980
- [Springfeldt, Björn (ed.)] On Kawara, Continuity/Discontinuity 1963-1979. Moderna Museets Utställningskatalog, nr. 169. [Exh. cat.]. Stockholm: Moderna Museet, 1980 (Venues: Moderna museet, Stockholm and Museum Folkwang, Essen and Van Abbemuseum, Eindhoven and The National Museum of Art, Osaka).
- 1987
- On Kawara: 1976 Berlin 1986. [Exh. cat.]. Berlin: Daadgalerie, 1987 (Venue: Daadgalerie).
- 1989
- 逢坂恵理子, 児島やよい編『河原温展「反復と対立」: 河原温と同時代の美術 1966-1989 [On Kawara Again and Against: 23 Date Paintings and 24 Prominent Works of Japanese Contemporary Art 1966-1989 Kawara: Date Paintings: June 7, 1966]』名古屋: ICA Nagoya, 1989年 (会場: Institute of Contemporary Arts, Nagoya).
- 1991
- Schampers, Karel (ed.). On Kawara: Date Paintings in 89 Cities. [Exh. cat.]. Rotterdam: Museum Boijmans van Beuningen, [1992] (Venue: Museum Boymans-van Beuningen, Rotterdam).
- 1991
- 『On Kawara 1952-1956 Tokyo』東京: PARCO出版, 1991年.
- 1992
- On Kawara: Again and Against = Wieder und Wider = 河原温: 反復と対立. Frankfurt am Main: Portikus, 1992 (Venues: Portikus Frankfurt am Main and The Renaissance Society at the University of Chicago and Institute of Contemporary Arts, Nagoya and Museum of Contemporary Art, Sydney).
- 1992
- On Kawara: I Went, I Met, I Read, Journal, 1969. Köln: Verlag der Buchhandlung Walter König, 1992.
- 1993
- On Kawara: 247 mois / 247 jours. Bordeaux: Capc Musée d'Art Contemporain de Bordeaux, [1994] (Venue: Capc Musée d'Art Contemporain de Bordeaux).
- 1995
- 『河原温: 死仮面』東京: PARCO出版, 1995年.
- 1996
- Douroux, Xavier and Franck Gautherot (eds.). Whole and Parts: 1964-1995: On Kawara. [Exh. cat.]. [Paris]: Les presses du réel, 1996 (Venue: Le Nouveau Musée, Institut d'Art Contemporai).
- 1997
- On Kawara 1964 Paris - New York Drawings. [Exh. cat.]. St. Gallen: Kunstverein St. Gallen, 1997 (Venue: Kunstverein St. Gallen).
- 1997
- On Kawara: Erscheinen - Verschwinden. [Exh. cat.]. Köln: Maly-Verl., 1997 (Venue: Kölnischen Kunstverein, Köln).
- 1998
- 南雄介, 武内厚子編『河原温: 全体と部分 1964-1995』東京: 東京都現代美術館, 1998年 (会場: 東京都現代美術館).
- 2000
- On Kawara: Horizontality / Verticality. [Exh. cat.]. [München]; Köln: Städtischen Galerie im Lenbachhaus München; Buchhandlung Walter König, 2000 (Venues: Städtischen Galerie im Lenbachhaus and Kunstbau München).
- 2002
- Watkins, Jonathan, René Denizot. On Kawara. Contemporary Artists. London: Phaidon, 2002.
- 2002
- On Kawara: Consciousness, Meditaiton, Watcher on the Hills. [Exh. cat.]. [Paris]; Birmingham: Les Presses du Réel; Ikon Gallery, 2002 (Venues: Le Consortium Dijon and Ikon Gallery).
- 2004
- On Kawara: Paintings of 40 Years. [Exh. cat.]. New York: David Zwirner, 2004 (Venue: David Zwirner).
- 2005
- 『On Kawara: Consciousness, Meditaiton, Watcher on the Hills: 邦訳冊子』豊田: 豊田市美術館, 2005年 (会場: 豊田市美術館) [展覧会カタログ].
- 2007
- On Kawara: Consciousness, Meditation, Watcher on the Hills. Dijon: Les Presses du réel/Ikon Gallery, 2007.
- 2012
- Simoens, Tommy, Angela Choon (eds.). On Kawara: Date Painting(s) in New York and 136 Other Cities. [Exh.cat.]. Ludion; New York: Antwerp; David Zwirner, 2012 (Venue: David Zwirner).
- 2015
- Weiss, Jeffrey, Anne Wheeler. On Kawara - Silence. [Exh.cat.]. [New York]: Guggenheim, 2015 (Venue: Solomon R. Guggenheim Museum).
- 2016
- Simoens, Tommy, Angela Choon (eds.). On Kawara 1966. [Exh. cat.]. [s.l.]: Ludion, 2016 (Venue: Museum Dhondt-Dhaenens).
- 2017
- Bernhöft, Akiko, ed. On Kawara: Pure Consciousness 1998–2013. translated by Sylee Gore. Cologne: Walther König, 2017.
- 2018
- Wei Rales, Emily, Anne Reeve, and Ali Nemerov (eds.). On Kawara. Potomac, MD: Glenstone Musuem, 2018.
- 2019
- 東京文化財研究所「河原温」日本美術年鑑所載物故者記事. 更新日2019-06-06. (日本語) https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/247367.html
日本美術年鑑 / Year Book of Japanese Art
「河原温」『日本美術年鑑』平成27年版(504-505頁)現代美術作家の河原温は、6月27日にニューヨークで死去した。生没年月日は公表されていないが、2015(平成27)年にグッゲンハイム美術館(ニューヨーク)で開催された大規模な個展「河原温――沈黙」の図録に、上記の日付における略歴として「29,771日」と記されており、享年81であったと思われる。 河原温は、1951(昭和26)年に愛知県立刈谷高等学校を卒業して上京し、独学で絵画の制作を開始した。翌5...
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河原 温(かわら おん、(1932年12月24日 - 2014年6月27日)は、日本の美術家。コンセプチュアル・アートの第一人者として海外で高い評価を得ている。公式なバイオグラフィーは「29,771 days」とだけ記載されている。
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- 2023-02-20