- 作家名
- 志村ふくみ
- SHIMURA Fukumi (index name)
- Shimura Fukumi (display name)
- 志村ふくみ (Japanese display name)
- しむら ふくみ (transliterated hiragana)
- 生年月日/結成年月日
- 1924-09-30
- 生地/結成地
- 滋賀県近江八幡市
- 性別
- 女性
- 活動領域
- 工芸
作家解説
1924(大正13)年9月30日、滋賀県蒲生[がもう]郡(現・滋賀県近江八幡[おうみはちまん]市)に医師の小野元澄[もとずみ]、豊[とよ]の次女として生まれる。1926(大正15/昭和元)年、元澄の実弟である志村哲[さとる]、ひで夫妻の養女となり東京市(現・東京都)吉祥寺に移り住む。自身が養女であることは知らされず成長し、1932(昭和7)年には日本郵船会社勤務の養父の転任により上海に転居。成蹊小学校から上海北部小学校に転校する。1937(昭和12)年、世界情勢の悪化により一時帰国し、上海第一日本高等女学校から福岡県の福岡高等女学校に転校。その後再び養父の転任により上海、青島、長崎と居を移した。1940(昭和15)年、勉学のため単身帰国し、東京の文化学院女子部に転入。美術、文学、音楽など多彩な芸術分野について学ぶ充実した学生生活を送る一方、東京では実の姉兄と暮らし、徐々に自身の出自への疑問が大きくなっていった。
1941(昭和16)年の正月、ふくみは滋賀県近江八幡の小野家で、元澄と豊が実の両親であることを打ち明けられる。この時、実の両親、兄や姉、妹と共に新年を過ごしたことでふくみの人生は一変。日頃から芸術に親しむ小野家のなかでも、特に文化的素養が豊かであった実母と長兄の元衛[もとえ]により芸術世界への扉を示される。またこの年、病床にあった次兄・凌[しのぐ]の枕元で、豊から初めての機織りを習う。豊は、かつて京都の上賀茂民芸協団(柳宗悦らによる民藝運動の影響を受けて創立された団体)で、染織家の青田五良[ごろう]から指導を受けた経験を持つ人物であった。
1942(昭和17)年、文化学院を卒業。養父の転任により上海、神戸と転居するが、空襲により神戸の自宅が被災し近江八幡に疎開する。終戦後、一時は東京に戻るものの、兄の元衛の看病のため近江八幡に転居した。1947(昭和22)年8月、元衛永眠。再び東京に戻り、1949(昭和24)年には松田周一郎と結婚し2女をもうけた。
1956(昭和31)年、生前画家を志していた元衛の遺画集制作のため近江八幡を訪れた際、実の両親と旧知の仲であった柳宗悦に織物への道を勧められる。このことがきっかけとなり、ふくみは近江八幡に移住。植物染料による染めと紬糸による織物に取り組んだ。特定の師にはつかず、実母や地元の職人などの教えを受けながら自身の表現を模索する日々だった。そうして1957(昭和32)年、工芸家・黒田辰秋の勧めで第4回日本伝統工芸展に《方形文綴織単帯[ほうけいもんつづれおりひとえおび]》(1957年、個人蔵)を出品し、初入選を果たす。その後も第5回日本伝統工芸展に《秋霞譜(秋霞)[しゅうかふ(あきがすみ)]》(1958年、個人蔵)を出品し奨励賞、第6回日本伝統工芸展に《鈴虫》(1959年、滋賀県立美術館)を出品し文化財保護委員会委員長賞を受賞する。同展では続けて《七夕》(1960年、滋賀県立美術館)が朝日新聞社賞、《霧》(1961年、滋賀県立美術館)が再び文化財保護委員会委員長賞を受賞し、翌年以降は審査を経ずに作品を出品する特待者となった。
この時期のふくみの作品は、民藝運動の影響が考えられる、素朴ながらも力強い染めと織りが大きな特徴である。また、豊かな感性に育まれた作家独自の世界観の表現も見出される。例えば《鈴虫》では、藍から深緑へと変化していく緯糸[よこいと]のグラデーションのなかに、近江の草むらの静けさや、本作が制作された夏の終わりの季節の雰囲気が浮かび上がる。技法としては、さまざまな色の短い糸をつなぎ合わせ1本の長い糸として使用する「つなぎ糸」が《秋霞譜(秋霞)》などに用いられ独特の質感を生み出している。なお、この技法は滋賀県に古くから伝承されたものが参考になっており、後年に至るまで、ふくみが好んで作品に取り入れている。
1968(昭和43)年、ふくみは京都市右京区の嵯峨に移住する。京都では、多くの人々との交流や国内外への旅を通し、染織家としての見識を深め、広げた。特に1980年代後半にはルドルフ・シュタイナーの人智学に触れ、大きな影響を受けた。色についても研究を進め、より多彩な色を表現に用いるようになる。新しい工房には、ふくみが創作において大切にしていた藍色を得るため、藍甕を設置。色を取り出すために藍を発酵させる「藍建[あいだて]」も自らの手でおこなうようになった。また旺盛に染織作品の制作に取り組む一方、詩人の大岡信の勧めにより随筆を執筆。1982(昭和57)年に刊行された『一色一生』(求龍堂)は、翌年の第10回大佛次郎賞を受賞した。以降、随筆家としても多くの著作を発表している。
京都に移住してからの作風は、近江八幡時代と比較すると、より強い作家性が前面に打ち出されている。《聖堂[みどう]》(1989年、滋賀県立美術館)は、イタリアを訪問した際に印象に残った教会の蝋燭の灯りのデザインが斬新である。また《回帰》(1991年、滋賀県立美術館)では、大胆な赤と紫の片身替[かたみがわり](左右で色を違えること)の地に、生の流転を思わせるような金糸による円形の織り模様がぼんやりと浮かび上がる。これらはいずれも文学や哲学、宗教学などに対するふくみの並々ならぬ造詣の深さに裏打ちされ、生み出された表現といえよう。また京都の工房の近くには「源氏物語」ゆかりの地があり、そのことが《篝火[かがりび]》(1999年、滋賀県立美術館)、《夕顔》(2003年、滋賀県立美術館)といった「源氏物語」をテーマとした連作〈源氏物語シリーズ〉の制作につながった。故郷・近江への思いも重要な創作のテーマとなり、琵琶湖の夕焼けをイメージした《湖上夕照[こじょうせきしょう]》(1979年、滋賀県立美術館)や、雪深い湖北(琵琶湖の北部地域)の情景を表した《湖北残雪(白・紺)》(1981年、国立工芸館)などを発表した。
1990(平成2)年、植物染料と紬糸を用いた卓越した表現が認められ、重要無形文化財「紬織」保持者(人間国宝)に認定。同年、織物を通して芸術や文化を総合的に学ぶ場として、「都機工房[つきこうぼう]」を長女・洋子とともに設立する。そして1994(平成6)年、同年の第23回日本伝統工芸近畿展への出品を最後に、長年所属していた日本伝統工芸会を脱退した。以降は個展などで作品の発表を続け、2013(平成25)年には芸術学校「アルスシムラ」を京都に開校、後進の指導にあたった。2015(平成27)年、文化勲章受章。2018(平成30)年には、石牟礼道子作、ふくみが衣装を担当した新作能「沖宮[おきのみや]」が上演された。
(山口真有香)(掲載日:2025-12-01)
- 1964
- 第1回志村ふくみ作品展, 資生堂ギャラリー, 1964年.
- 1982
- 志村ふくみ展, 群馬県立近代美術館, 1982年.
- 1985
- 志村ふくみ展, 大分県立芸術会館, 1985年.
- 1985
- 現代染織の美: 森口華弘・宗廣力三・志村ふくみ, 東京国立近代美術館, 1985年.
- 1994
- 志村ふくみ展: 人間国宝・紬織の美: 開館十周年記念, 滋賀県立近代美術館, 1994年.
- 2001
- 志村ふくみ・洋子の創造「指スヤ都-」, 細見美術館, 2001年.
- 2007
- 志村ふくみ展: 裂を継ぐ, ポーラ ミュージアム アネックス, 2007年.
- 2007
- 志村ふくみの紬織を楽しむ, 滋賀県立近代美術館, 2007年.
- 2007
- 志村ふくみ: 源氏物語をつむぐ, 八幡市立松花堂美術館, 2007年.
- 2008
- 人間国宝 志村ふくみ 源氏物語を織る, 滋賀県立近代美術館, 2008年.
- 2008
- 伊砂利彦 志村ふくみ二人展: 染める、織る最前線, 福島県立美術館, 2008年.
- 2010
- しむらの色 志村ふくみ・洋子 染と織の世界, 浜松市美術館, 2010年.
- 2011
- しむらの色・神話の誕生: 染織家志村ふくみ・洋子展, 富山県水墨美術館, 2011年.
- 2014
- TISSER LES COULEURS: 色を紡ぐ: しむらの着物, パリ日本文化会館, フランス, 2014–2015年.
- 2015
- 志村ふくみ: 源泉をたどる, アサヒビール大山崎山荘美術館, 2015年.
- 2015
- 志村ふくみ展: 自然と継承, 滋賀県立近代美術館, 2015年.
- 2016
- 志村ふくみ: 母衣への回帰, 京都国立近代美術館, 沖縄県立博物館・美術館, 世田谷美術館, 2016年.
- 2018
- 志村ふくみ: いのちの色に導かれ: 特別展, 名都美術館, 2018年.
- 2019
- 志村ふくみ: いのちを織る, 茨城県近代美術館, 郡山市立美術館, 姫路市立美術館, 2019年.
- 2024
- 志村ふくみ展: 色と言葉のつむぎおり: 人間国宝: 生誕100年記念: 滋賀県立美術館開館40周年記念, 滋賀県立美術館, 2024年.
- 滋賀県立美術館
- 京都国立近代美術館
- 国立工芸館
- 文化庁
- 群馬県立近代美術館
- 大分県立美術館
- 福岡県立美術館
- 広島県立美術館
- 福島県立美術館
- 1982
- 志村ふくみ『一色一生』東京: 求龍堂, 1982年. [自筆文献].
- 1982
- 群馬県立近代美術館編『志村ふくみ展』群馬: 群馬県立近代美術館, 1982年 (会場: 群馬県立近代美術館) [展覧会カタログ].
- 1985
- 『志村ふくみ展』大分: 大分合同新聞社, 1985年 (会場: 大分県立芸術会館) [展覧会カタログ].
- 1992
- 志村ふくみ『語りかける花』京都: 人文書院, 1992年. [自筆文献].
- 1994
- 志村ふくみ『織と文』東京: 求龍堂, 1994年. [自筆文献].
- 1994
- 滋賀県立近代美術館編『志村ふくみ展: 人間国宝・紬織の美; 開館十周年記念』滋賀: 滋賀県立近代美術館, 1994年 (会場: 滋賀県立近代美術館).
- 1999
- 志村ふくみ『母なる色』東京: 求龍堂, 1999年. [自筆文献].
- 2003
- 志村ふくみ『ちよう、はたり』東京: 筑摩書房, 2003年. [自筆文献].
- 2004
- 志村ふくみ『篝火 織と文, 続』東京: 求龍堂, 2004年. [自筆文献].
- 2004
- 滋賀県立近代美術館[ほか]編『志村ふくみの紬織り: 初期から現在まで』滋賀: 滋賀県立近代美術館, 2004年 (会場: 滋賀県立近代美術館) [展覧会カタログ].
- 2007
- 志村ふくみ『小裂帖』東京: 筑摩書房, 2007年. [自筆文献].
- 2009
- 志村ふくみ『白夜に紡ぐ』京都: 人文書院, 2009年. [自筆文献].
- 2013
- 志村ふくみ『伝書 しむらのいろ』東京: 求龍堂, 2013年. [自筆文献].
- 2015
- 志村ふくみ『つむぎおり』東京: 求龍堂, 2015年. [自筆文献].
- 2015
- アサヒビール大山崎山荘美術館編『志村ふくみ 源泉をたどる』[大山崎町 (京都)]: アサヒビール大山崎山荘美術館, 2015年 (会場: アサヒビール大山崎山荘美術館) [展覧会カタログ].
- 2015
- 滋賀県立近代美術館企画・編集『志村ふくみ: 滋賀県立近代美術館名品選』大津: 滋賀県立近代美術館, 2015年.
- 2016
- 松原龍一, 平井啓修編『志村ふくみ: 母衣への回帰』京都: 京都国立近代美術館, 2016年 (会場: 京都国立近代美術館, 沖縄県立博物館・美術館, 世田谷美術館). [展覧会カタログ].
- 2018
- 名都美術館編『志村ふくみ展: いのちの色に導かれ』[長久手]: 名都美術館, 2018年 (会場: 名都美術館).
- 2019
- 『志村ふくみ: いのちを織る』東京: 東京美術, 2019年 (会場: 茨城県近代美術館, 郡山市立美術館, 姫路市立美術館). [展覧会カタログ].
- 2024
- 山口真有香執筆『志村ふくみ展: 色と言葉のつむぎおり: 人間国宝; 生誕100年記念; 滋賀県立美術館開館40周年記念』滋賀県立美術館編. 大津: 滋賀県立美術館, 2024年 (会場: 滋賀県立美術館).
Wikipedia
志村 ふくみ(しむら ふくみ、1924年(大正13年)9月30日 - )は、日本の染織家、紬織の重要無形文化財保持者(人間国宝)、随筆家。草木染めの糸を使用した紬織の作品で知られる。
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- 2025-10-10