A1009

青木野枝

| 1958 |

AOKI Noe

| 1958 |

作家名
  • 青木野枝
  • AOKI Noe (index name)
  • Aoki Noe (display name)
  • 青木野枝 (Japanese display name)
  • あおき のえ (transliterated hiragana)
生年月日/結成年月日
1958
生地/結成地
東京都
性別
女性
活動領域
  • 彫刻

作家解説

青木野枝は1958年、東京都練馬区に生まれた。東京都立芸術高校(現・東京都立総合芸術高校)から武蔵野美術大学(東京)造形学部彫刻学科に進み、1983年に同大学大学院を修了。学部3年の時に出会った鉄に相性のよさを感じ、以後制作の主素材とする。初期には、既製の鉄棒や鉄板を組み合わせて、テントや塔、動物の骨のようなかたちをつくった。それらが地面に直接置かれた姿は、内部に人や家財、遺物を抱え守る、住居や宗教的な依代を想起させる。くらしや祈りのための造形がひとつの集団の世界観を象徴するように、青木は鉄で彫刻をつくり置くことで、自身の世界像を提示した。 青木の彫刻は、その半分以上が発表時の姿のままでは残っていない。会場で鉄板から切り出したパーツを組み立て、展示終了後に解体してしまうからだ。この手法をとり始めたのは1980年代後半からで、青木は国内外のグループ展に招聘されるようになっていた。鉄板を切る溶断作業は全て青木が行い、鉄の切断面には作者の手の跡が刻まれている。作品サイズが大きくなるほどパーツは大量に必要となり、制作時間の大部分は鉄の溶断作業に費やされる。 1994年に東京の資生堂ギャラリー(東京)で、翌1995年に大阪の国立国際美術館(大阪)で開催された個展では、重く固い鉄から切り出されたやわらかな線が力強く立ち上がり、大らかに空間を区切った。2000年には大規模な個展、「青木野枝展—軽やかな、鉄の森」(目黒区美術館、東京)を実現。青木は現場設営の手法を発展させ、建築空間の質や大きさに応じて作品の形態、配置を決めた。作品は空間と一体化した。鑑賞者は作品が置かれた床を歩いて内外を行き来して作品と対面し、その体験はより開かれたものに変化した。同年に芸術選奨文部大臣新人賞を受賞し、制作上のみならず、作家としてのキャリアにおいても転機を迎えた。 2000年以降の活動に加わったのが、越後妻有アートトリエンナーレ(越後妻有、新潟)、瀬戸内国際芸術祭(高松港周辺・豊島、香川)等、日本各地で開催される芸術祭への参加である。青木は作品設置前にワークショップを行うなどして地域住民との関係を築き、また参加後も定期的にその地域を再訪している。そこには、自身の世界像の象徴である彫刻が、他者の世界像を容易に侵してはならない、という信念が働いている。また、深刻な過疎高齢化が進む地方の現実に対して、芸術家に何ができるかという問いへの、青木なりの直接行動であるだろう。 2012年、大規模な個展「青木野枝|ふりそそぐものたち」(豊田市美術館・名古屋市美術館、愛知)がふたつの美術館で同時開催され、およそ30年の活動を総括する機会となった。その後も精力的に発表を重ね、2019年から2020年にかけては、個展「青木野枝 ふりそそぐものたち」(長崎県美術館)、「青木野枝 霧と山」(霧島アートの森、鹿児島)、「青木野枝 霧と鉄と山と」(府中市美術館、東京)を続けて実現した。翌2021年に第71回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した。 鉄の彫刻にガラスが初めて導入されたのは2017年で、2020年代に入って鉄に次ぐ存在感を示すようになる。ガラスは光を通し、また周囲の状況を映す。パンデミックを経て、人権侵害や戦争など深刻な問題が噴き出した時代に、人々が抱く不安や恐れ、怒りの感情が、ガラスの表面に映り込む。2025年、阪神・淡路大震災から30年目の年に、被災地に立つ兵庫県立美術館の屋外空間に、《Offering/Hyogo》が設置された。円と球体という求心的な形のつらなりが、山から海へと吹く風を受け止め、また送り出して、大惨事を経た人々の記憶の傍に寄り添う。ここで青木の彫刻は、「私たちの」世界像を示す。 青木は、20世紀初頭に始まるモダニズム彫刻を継承し、伝統的な彫刻が持つ量塊感とは異なる、自立する鉄の線が区切る虚の空間を、独自の手法で展開させた。鉄はどこをとっても同じ組成で、つまり部分と全体が等価であり、また同じような形が連なる風通しのよい形態は、中心と周縁という関係勾配とは無関係だ。こうした特性は、還元主義的傾向の強い1970年代への反動として、制作行為や主題を復権させて多元的価値を称揚した、1980年代を背景として生まれている。一方で、素材や技法の選択、作品の構造などは簡素で最小限に絞られ、この点で青木は先行世代とも接続する。1990年代からは全国の美術館で次々と大規模な展示を実現し、この時期に活性化した美術館活動の期待に応えてきた面もある。 なにより、現代美術の範疇にとどまらない柔軟さと自由さが、青木の本領発揮である。青木の彫刻は、ほとんどが設置場所に合わせてつくられ、展示期間が過ぎると解体される(註)。その繰り返しに費やされる膨大な作業、労働の時間を、青木は彫刻に捧げ続けている。いっときの存在としての彫刻をつくり出す40年にわたる営みこそが、青木を稀有な存在としている。 (神山亮子)(掲載日:2025-12-01) 註 すべての作品が解体されるわけではない。恒久設置する計画で作られる作品や、自立した形状で美術館等に収蔵されている作品もある。

2000
家村珠代「青木野枝をめぐって」『青木野枝展: 軽やかな、鉄の森』目黒区美術館編. 東京: 目黒区美術館, 2000年, 29–35頁 (会場: 目黒区美術館).
2000
青木淳「ヴォリュームについて」『青木野枝展: 軽やかな、鉄の森』目黒区美術館編. 東京: 目黒区美術館, 2000年, 37–43頁 (会場: 目黒区美術館).
2012
「青木野枝インタビュー(聞き手: 北谷正雄, 角田美奈子)」『青木野枝 ふりそそぐものたち』北谷正雄, 角田美奈子, 成瀬美幸編. 東京: 青木野枝展実行委員会, 2012年, 8–15頁.(会場: 豊田市美術館, 名古屋市美術館. [展覧会カタログ].
2012
青木野枝「記憶に残るできごと・作家のことば」『青木野枝 ふりそそぐものたち』北谷正雄, 角田美奈子, 成瀬美幸編. 東京: 青木野枝展実行委員会, 2012年, 68–71頁. (会場: 豊田市美術館, 名古屋市美術館). [展覧会カタログ].
2013
青木野枝, 板倉容子, 野口みどり企画・編集『鉄のワークショップ: 青森県立むつ養護学校』[青森]: [青森県立美術館], [2013年] (会場: 青森県立美術館). [展覧会カタログ].
2014
Hashimoto Art Office, ed. “Aoki Noe: Protoplasm.” Tokyo: Hashimoto Art Office, 2014.
2018
「インタビュー 彫刻という幸いについて (聞き手:小田原のどか)」『空白の時代、戦時の彫刻/この国の彫刻のはじまりへ 彫刻=Sculpture, 1』小田原のどか編. 東京: トポフィル, 2018年, 451–478頁.
2019
港千尋「すずなりの美術館: 創造のクリティカルゾーンへ」『青木野枝 ふりそそぐものたち』長崎県美術館編. 長崎: 長崎県美術館, 2019年, 6–10頁. (会場: 長崎県美術館). [展覧会カタログ].
2019
野中明「青木野枝 ふりそそぐものたち」『青木野枝 ふりそそぐものたち』長崎県美術館編.長崎: 長崎県美術館, 2019年, 50–54頁 (会場: 長崎県美術館). [展覧会カタログ].
2019
青木野枝『流れのなかにひかりのかたまり』東京: 左右社, 2019年. (会場: 鹿児島県霧島アートの森, 府中市美術館). [展覧会カタログ].
2020
青木野枝「長崎・霧島・府中: 山」『青木野枝 霧と鉄と山と』府中市美術館編. 東京: 府中市美術館, 2020年, 4–5頁. (会場: 府中市美術館) [展覧会カタログ].
2020
神山亮子「霧と鉄と山と」『青木野枝 霧と鉄と山と』府中市美術館編. 東京: 府中市美術館, 2020年, 6–8頁. (会場: 府中市美術館) [展覧会カタログ].
2025
西澤碧梨「鉄が光をもつとき」『青木野枝』西澤碧梨・神山亮子・櫻井拓編. 飯能: 熊玉スタジオ, 2025年, 9–11頁.
2025
神山亮子「青木野枝インタビュー1」『青木野枝』西澤碧梨・神山亮子・櫻井拓編. 飯能: 熊玉スタジオ, 2025年, 61–71頁.
2025
神山亮子「青木野枝インタビュー2」『青木野枝』西澤碧梨・神山亮子・櫻井拓編. 飯能: 熊玉スタジオ, 2025年, 109–118頁.
2025
「ドキュメント」『青木野枝』西澤碧梨・神山亮子・櫻井拓編. 飯能: 熊玉スタジオ, 2025年, 162–167頁.
2025
「流れのなかにひかりのかたまり」『青木野枝』西澤碧梨・神山亮子・櫻井拓編. 飯能: 熊玉スタジオ, 2025年, 169–174頁.
2025
東京都庭園美術館編『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』東京: 東京都庭園美術館, 2025年. (会場: 東京都庭園美術館) [展覧会カタログ].
2025
中村水絵編『芸術家が見た戦争のすがた: ゴヤからピカソ、そして長崎へ』長崎: 長崎県美術館, 2025年 (会場: 長崎県美術館). [展覧会カタログ].

Wikipedia

青木 野枝(あおき のえ、1958年 - )は、東京都出身の彫刻家、版画家。多摩美術大学客員教授。鉄を媒介にした空間表現が特徴とされる。「重量感のある彫刻とは対照的に、軽やかで繊細、流れるような彫刻で知られている」また、「鉄という見た目よりもずっと重い素材を使いながら、時には藤の籠のような、また時には草花のシルエットのような重量を感じさせない彫刻を作り出している。」鉄は通常、美術用ではなく工業材料として使われるものであるが、青木は自分で切って加工をすると新しく生まれ変わるような感覚がすごく好きと述べている。

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  • 2023-02-20