なぜ女性の大彫刻家は現れないのか
小田原のどか
R202211

本論考で、批評家で自身も彫刻家である小田原のどか(1985年生)は、特に日本の作家や状況に照準を絞りながら、美術界において他ジャンルと比較して女性の彫刻家の活動が不可視化されてきたことについて考察している。そのタイトルは、リンダ・ノックリンが1971年に発表して美術界に衝撃を与えた「なぜ女性の大芸術家は現われないのか?」(松岡和子による邦訳が1976年5月号の『美術手帖』に掲載されている)に由来する。同論考で、ノックリンは、歴史のなかで、あるいは美術史の領域において、女性芸術家が周縁化されてきた構造的問題を暴き出した。小田原が「なぜ女性の大彫刻家は現れないのか?」で光を当てるのは、「女性芸術家」の内部に存在するさらなる不均衡である。小田原は冒頭で、ノックリンの問題意識を継承しつつ、彼女が「なぜ女性の大芸術家は現われないのか?」のなかで論じた「女性芸術家」はすべて「女性画家」であり、「女性彫刻家」はいなかったことを批判的に指摘する。
本論考の初出は、2021年8月号の『美術手帖』である。そこでの特集は「女性たちの美術史」と題され、日本の戦後・現代美術をフェミニズムの視点から再考することを目的としていた。その特集タイトルからもわかるように、小田原論考が執筆された背景には、ジェンダーにまつわる問題の改善を目指す、2010年代後半以降の日本美術界の状況がある。こうした状況は、2018年に多摩美術大学の彫刻学科に在籍する学生有志が声をあげたことでより広く知られるようになった、美術大学における教員と学生のジェンダー・バランスの不均衡や、2021年に発足した「表現の現場調査団」の大規模な調査を通じて、美術業界の現場で相次ぐセクシュアル・ハラスメントの問題が明るみに出てきたことをきっかけに大きなうねりとなった。
その後も小田原は、制作活動に加え、『近代を彫刻/超克する』(講談社、2021年)を上梓するなど、近現代彫刻史を軸として、多様な社会・政治的イシューに切り込む旺盛な文筆活動を継続している。
- 題
- なぜ女性の大彫刻家は現れないのか
- 著者
- 小田原のどか
- 初出
- 2021
- 翻訳
- 加藤久美子
- 編集
- メグ・テイラー、中嶋泉
- デザイン
- イエン・ライナム
- テーマ
- 日本のアートとフェミニズム
- サイト公開
- 2023-03-31
- 更新日
- 2023-03-31
© 2022 Odawara Nodoka + Bunka-cho Art Platform Japan
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- サイテーション
- Footnote/endnote:
Odawara Nodoka, "Why Have There Been No Great Women Sculptors?," trans. Kato Kumiko, Bunka-cho Art Platform Japan, posted March 31, 2023, artplatform.go.jp/readings/R202211.
Bibliography: Odawara Nodoka. "Why Have There Been No Great Women Sculptors?" Translated by Kato Kumiko. Bunka-cho Art Platform Japan. Posted March 31, 2023. artplatform.go.jp/readings/R202211. - 原書情報
- 小田原のどか「なぜ女性の大彫刻家は現れないのか」『美術手帖』73巻1089号(2021年8月)、92–97頁。
Odawara Nodoka, “Naze josei no daichōkokuka wa arawarenai noka” in Bijutsu techo, vol. 73. no.1089 (August 2021): 92–97. - 国立国会図書館(NDL)リンク
- https://id.ndl.go.jp/bib/031604361
- ISBN