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日本の現代美術を翻訳する:言説、文脈、歴史

2022年7月7日

シンポジウム

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文化庁アートプラットフォームシンポジウム



開催趣旨

日本の戦後美術及び現代美術は、近年、欧米を中心とする海外での評価が高まっています。その背景の一つには、欧米の文脈とは異なる文脈で作られ、議論されてきたことがあると考えられます。こうした欧米での評価とともに、日本の側も、日本で作られてきた文脈や言説を紹介することによって、その解釈や評価に積極的に関わることが求められています。
文化庁アートプラットフォーム事業では、日本における文脈や言説の形成が海外からも見えるように、日本現代美術に関する重要文献を翻訳し、ウェブサイトで公開してきました。また、翻訳、クロスチェック、校閲というプロセスを導入し、日本語を翻訳する際のスタイルガイドを作成するなど、美術翻訳の質的向上にも力を入れてきました。
日本国内における現代美術の評論や研究は長年にわたって行われており、その全貌は依然として海外からは見えにくい状況にあります。海外において日本の現代美術の評論や研究はどう捉えられているのか、また、日本の現代美術について、どのような研究や評論、展示がなされているのか、海外で日本近現代美術の研究に携わってきた研究者を招いて、こうした問題を議論しつつ、今後どのように日本の現代美術の海外発信を行うのがよいかについても考察します。


開催概要

日 時: 2022年7月7日(木)12:00‒13:30(開場:11:45)
参加方法: ZOOMウェビナー
言 語: 日本語、英語(日英同時通訳あり)
参 加 費: 無料


11:55

ウェビナー機能説明、登壇者紹介


12:00‒12:05

開会挨拶

片岡真実(日本現代アート委員会座長/アート・コミュニケーションセンター(仮称)エグゼクティブ・アドバイザー/森美術館館長)

12:05‒12:20 事例紹介

文化庁アートプラットフォーム事業が進める文献翻訳

大舘奈津子(日本現代アート委員会委員/翻訳事業意見交換会メンバー/芸術公社/一色事務所)

作家や作品に対する理解を深める上で、その歴史、言説や文脈を知ることが重要である。しかしながら、日本の現代美術においては言語的な制約によってその機会が十分にあるとは言えない状況にあり、また、翻訳そのものの質についてもばらつきがある。このような課題を解決するために、アートプラットフォーム事業が進めてきた文献翻訳のプロセスと、翻訳対象文献の選定について紹介する。 翻訳というのは極めて地道なものであり、短期的な結果が出にくいものでもあるがゆえ、持続していくためにはさまざまなリソースが必要となる。これまで、各機関や各研究者が論文や展覧会を通じて行ってきた研究と、どのように連携させ、持続的に発展、継続させていくか。翻訳事業とプラットフォーム化することの意義について考える。


12:20‒12:40 セッション1

戦後美術史「三位一体」論:どうしたら日本の現代美術が世界美術史に定位置を確保できるか

富井玲子(美術史家)

日本戦後美術史は今危機の時を迎えている。60年代美術の先駆的ラジカリズムと国際的同時性により、世界美術史のパラダイム・サイトであることは世界美術史でも認識が高まりつつあるように思う。ただし、それは日本美術が第二次世界大戦終息の直後から注目を集めてきた状況に負うところが少なくない。しかしながら現在は、他の非西洋周縁諸地域の戦後美術史研究が活発になり、日本は多声のなかの一声になりつつあり、さらに21世紀になって進行中のグローバル・コンテンポラリー・アートに目を向けるとまさに百花斉放である。この中で戦後日本美術がどのように位置付けられるのか。この問題意識のもと、本トークでは「受動=評価してもらう」ではなく「能動=評価を出す」を基本姿勢とした戦略「三位一体論」について考える。三位一体とは「学術(美術史)、市場、美術館(収蔵)」の三者が緊密に連繋しながら現代美術をグローバルな言説の中に盛り上げつつ定着させていく考え方である。関連して、日本では誤解の多い美術批評と美術史の違いについても言及する。


12:40‒13:00 セッション2

アートを世界に向けて翻訳する:日本からの対話者不足とアートの危機

ウィリアム・マロッティ(カリフォルニア大学ロサンゼルス校歴史学部准教授)

アーティストは、文化の活性に不可欠かつ強力な存在であり、アートという媒体を通じ、自らの視点や物事の捉え方を反映させながら世界との対話をする。そして私たちは、アートを通して、物事を違った観点から見ることができ、その新しい知覚につき動かされる。このような急を要する課題は、ハイナー・ミュラーの言葉を借りれば、「現実を不可能にするために必要な、芸術による破壊」、あるいは、アーティスト中島由夫の言葉を借りるなら、「アートは常に次の可能性である」。アートは歴史においても同じ役割を果たし、現時点で有意義な検討課題となり得る差異や議論、他の可能性などを内包する。しかし、それはアートが簡単に触れられるように存在して初めて可能となる。本セッションでは、日本における驚くべき多様な芸術の可能性、翻訳プロジェクトによって開かれる可能性、そして逆に、保存努力の不十分さや還元的ナショナリズムの枠組みによって失われる可能性について考察したい。


13:00‒13:20 セッション3

ディスカッション

◎パネリスト:
富井玲子
ウィリアム・マロッティ
大舘奈津子
中嶋泉(翻訳事業意見交換会メンバー/大阪大学大学院人文学研究科准教授)
山本浩貴(翻訳事業意見交換会メンバー/金沢美術工芸大学美術科芸術学講師)
大久保玲奈(文化庁アートプラットフォーム事業事務局/翻訳家)
◎モデレーター:加治屋健司(日本現代アート委員会委員/翻訳事業意見交換会メンバー/東京大学大学院総合文化研究科教授)


13:20‒13:30

質疑応答

◎モデレーター:加治屋健司



登壇者プロフィール(敬称略)

富井玲子美術史家

©Daphne Youree

美術史家。1988年テキサス大学オースティン校美術史学科博士課程修了。以後ニューヨーク在住、国際現代美術センター(CICA)の上級研究員を経て1992年より無所属で活動。ポスト1945日本美術史研究をテーマにしたグローバルな学術メーリングリスト・グループ「ポンジャ現懇」(2003年設立)を主宰。英文単著『荒野のラジカリズム―国際的同時性と日本の1960年代美術』(MIT大学出版局、2016年)がロバート・マザーウェル出版賞を受賞、同書をもとに「荒野のラジカリズム―グローバル1960年代の日本のアーティスト」展をジャパン・ソサエティ(ニューヨーク)で企画開催(2019年)。令和2年度文化庁長官表彰(文化発信・国際交流-日本美術研究)を受賞。

ウィリアム・マロッティカリフォルニア大学ロサンゼルス校歴史学部准教授

日常生活と文化史に焦点を当てた日本近現代史を専門とし、UCLA では、東アジア研究修士課程講座長、Japanese Arts &Globalizations(JAG)のディレクターも務める。著書『Money, Trains and Guillotines: Art and Revolution in 1960s Japan』(デューク大学出版、2013 年)では、60 年代初頭日本の文化や日常生活の政治性と思想性を、前衛芸術とパフォーマンスにおける変容を通して論じた。現在は、1968 年をグローバルな事象として捉え、文化の政治性と抗議運動の実践を分析した『The Art of Revolution: Politics and Aesthetic Disruption in 1960s Japan』を執筆中。演劇、写真、映画、ダンス、カウンターカルチャーなど、あらゆる形式のアートやパフォーマンスから、10 年にわたる可視性と正当性をめぐる闘争における美学(知覚)と政治的行為の交錯を考察する。第二次世界大戦後の日本、世界史、1960年代、冷戦、批評論、日常生活、アートと政治、パフォーマンス、法律と正当性、抗議運動など、幅広い研究分野に関心をもつ。

大館奈津子日本現代アート委員会委員/翻訳事業意見交換会メンバー/芸術公社/一色事務所

©Yamamoto Naoaki

⼀⾊事務所にて、荒⽊経惟、森村泰昌、笠原恵実⼦、やなぎみわ、藤井光のマネジメントに携わる。2010 年よりウェブマガジン「ARTiT」の編集を兼任。『ヨコハマトリエンナー レ 2014』ではキュレイトリアル・アソシエイツを務めた。これまで担当したプロジェクトとして『やなぎみわ:Windswept Women-The old Girls’ Troupe』(ヴェネツィアビエンナーレ⽇本館、2008 年)、『Yasumasa Morimura:Theater of Self 』(ウォーホール美術館、ピッツバーグ、2013 年)『荒⽊経惟 往⽣写集』(豊⽥市美術館、新潟市美術館、資⽣堂ギ ャラリー他、2014年)『Yasumasa Morimura: Ego Obscura』(Japan Society、 ニューヨーク、 2018年)など。ここ最近はRefreedom_Aichiや Art for All、表現の現場調査団等、アーティストたちが具体的な課題解決のために取り組む現場に運営として関わることで、新たな協働の形を探っている。

加治屋健司日本現代アート委員会委員/翻訳事業意見交換会メンバー/東京大学大学院総合文化研究科教授

©石原友明

美術史家。第二次世界大戦後の日米の美術と美術批評を中心に研究。広島市立大学芸術学部准教授、京都市立芸術大学芸術資源研究センター准教授を経て、2016年東京大学大学院総合文化研究科准教授、2019年より現職。日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ代表、東京大学芸術創造連携研究機構副機構長。著書に『アンフォルム化するモダニズム カラーフィールド絵画と20 世紀アメリカ文化』(東京大学出版会、近刊)、編著に『宇佐美圭司 よみがえる画家』(東京大学出版会、2021年)、共編著に『From Postwar to Postmodern, Art in Japan 1945−1989: Primary Documents』(New York: Museum of Modern Art, 2012)など。

中嶋泉翻訳事業意見交換会メンバー/大阪大学大学院人文学研究科准教授

主に現代美術、フェミニズム、日本の美術の領域で研究をおこなう。国際基督教大学卒。一橋大学大学院言語社会研究課修士課程、リーズ大学大学院修士課程を経て、2013年度一橋大学大学院言語社会研究科にて博士号取得。日本の女性作家の調査を進めており、聴き取りも行なっている。近著に『アンチ・アクション―日本戦後絵画と女性画家』(ブリュッケ、2019年、第42回サントリー学芸賞受賞)、Past Disquiet: Artists International Solidarity and Museums-in-Exile, (University of Chicago Press, 2018)など。

山本浩貴翻訳事業意見交換会メンバー/金沢美術工芸大学美術科芸術学専攻講師

©Hayashi Shunsaku

文化研究者、アーティスト。1986年千葉県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、ロンドン芸術大学にて修士号・博士号取得。2013~2018年、ロンドン芸術大学トランスナショナルアート研究センター博士研究員。韓国・光州のアジアカルチャーセンター研究員、香港理工大学ポストドクトラルフェロー、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科助教を経て、2021年より金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科芸術学専攻講師。単著に『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社、2019年)、『ポスト人新世の芸術』(美術出版社、2022年)、共著に『トランスナショナルなアジアにおけるメディアと文化 発散と収束』(ラトガース大学出版、2020年)、『レイシズムを考える』(共和国、2021年)、『東アジアのソーシャリー・エンゲージド・パブリック・アート 活動する空間、場所、コミュニティ』(ベーノン・プレス、2022年)など。

大久保玲奈文化庁アートプラットフォーム事業事務局/翻訳家

コロンビア大学バーナード校美術史学部卒業。ニューヨークの非営利アーティストブックストア、オークションハウス、美術館でインターンとして勤務。都内のギャラリーに勤めた後にフリーランスとして独立。曽根裕のスタジオでアーキビスト、東京と直島を主としたインバウンド向けアートツアーを行う傍ら、アーティストやデザイナー、美術館、ギャラリーのために執筆と翻訳を行う。アートプラットフォーム事業の翻訳事業では、文献と翻訳者、編集者とのマッチングを担当している。


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